令和6年度の税制改正大綱についての解説と所感【第1弾】
昨年末に令和6年度税制改正大綱が公表されました。
税制改正大綱は毎年、年末に公表されますが、その時の社会情勢、経済情勢等を考慮した改正が予定されます。
中身はひたすら文章が続くので専門家でない限り読み解くのが大変と思いますので、
主な改正論点の簡単な解説と所感について述べていきたいと思います。
なお、今回は第1弾として【法人】向けと【消費税】についてです。
大綱の主な改正論点は以下の通りです。
- 【法人】1.賃上げ税制の拡充
- 【法人】2.飲食交際費の判定金額引き上げ
- 【法人】3.倒産防止共済の損金算入の制限
- 【法人】4.外形標準課税逃れへの対応
- 【消費税】5.輸出物品販売場制度の見直し
- 【消費税】6.インボイス3万円未満の自販機特例の要件緩和
- 【個人】7.定額減税
- 【個人】8.新NISA新設 ※令和5年度改正
- 【個人】9.子育て支援(住宅ローン控除(令和6年中に居住する分)、生命保険料控除)
- 【個人】10.扶養控除の見直し
- 【資産税】11.相続時精算課税制度、生前贈与加算期間の見直し ※令和5年度改正
【法人】1.賃上げ税制の拡充
それではそれぞれ解説等していきたいと思います。
こちらの賃上げ税制は、企業が従業員の給与を前期に比べて増加させた場合に、
増加額に控除率を乗じた金額を税額から控除する制度になります。
政府としては物価高にもかかわらず賃金が上がらないというスタグフレーションの状態を
何とか抜け出したいため、企業に賃上げをしてもらおうという施策です。
賃上げが促進されれば企業も従業員も嬉しいですよね。
改正では、中小企業の場合、
・原則の控除率15%
・給与の増加割合に応じて最大15%加算
・従業員に対する教育訓練費の増加割合に応じて最大10%加算
・厚労省が認定する「子育てサポート企業」で一定の認定を受けた場合5%加算(新設)
となり、最大45%の控除率になります。(現行最大40%)
例えば、給与が前期に比べて1,000万円増加したら最大450万円が控除できることになります。
ただし、この控除は法人税額の20%が上限となりますので、450万円を全額控除しようとすると
2,250万円の法人税額がないと全額控除できません。
この場合、所得が6,500万円ほど出てないと全額控除できないことになります。
この上限が大きな制限となっていてイマイチ節税額が伸びませんでしたが、ここにも改正が入りました。
中小企業の場合は、控除しきれなかった分を5年間繰り越すことができるようになります。
これはありがたい改正です。(ただ賃上げを促進したいのであれば、本当は上限20%を撤廃してほしかったですが。。)
その代わり赤字であっても、この制度による計算をして申告書に別表を追加する必要がありますので、要注意です。
これらの改正は令和6年4月1日~令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象となります。
なお、厚労省が認定する「子育てサポート企業」は「くるみんマーク」といい、
企業として従業員等の子育て支援について一定の認定を受けることが必要になります。
厚労省 くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/kurumin/index.html
【法人】2.飲食交際費の判定金額引き上げ
こちらも中小企業にとっては嬉しい改正です。
令和6年4月1日以後支出分より、飲食費が「会議費」か「交際費」かどうかの金額判定が
一人あたり5,000円以下から1万円以下に引き上げられます。
つまり、今まで2人で2万円の食事をしたら「交際費」となっていたものが、「会議費」にすることができるということです。
交際費は中小企業の場合、上限が年間800万円までと決まっていますので、
「会議費にできるものが増える」=「交際費の枠が増える」ということになりますので、
交際費の多い企業にとっては嬉しい改正ですね。
コロナ以後は外へ飲みに行く機会も減ってしまいましたが、これを機に行く機会が増えると良いですね。
【法人】3.倒産防止共済の損金算入の制限
倒産防止共済とは、取引先の倒産に備えて加入するもので、
掛金の10倍まで無担保・無保証で借り入れることができる中小企業向けの制度(最高8,000万円)です。
掛金は損金にすることができますので、本来の目的とは別に「節税対策」として加入することもあります。
しかし今回、節税対策として利用することについて改正が入りました。
共済契約の解除後2年間は、新たに加入して支払った掛金については損金に算入することができなくなります。
状況は限定的ですが、制限がかかったことで本来の目的である取引先の倒産に備えることができなくなる可能性があります、、
税制によって経営判断に影響が出てしまうのは違和感が拭えない改正です。
【法人】4.外形標準課税逃れへの対応
まず外形標準課税とは、地方税である法人事業税の課税方式のことです。
資本金が1億円以下であれば、利益(所得)が出ていない場合は課税がされませんが、
資本金が1億円超については利益(所得)が出ていなくても給与や利子、賃借料、
そして資本金等の額などを基に課税されます。
そのため、大きな法人であっても資本金を1億円以下へ「減資」することで課税を逃れることが多発したため、
一定の資本剰余金(10億円)を超える法人についても外形標準課税の対象とするよう改正が入ることとなりました。
(その他細かい判定要件あり)
又、資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人の100%子会社についても、
一定の資本剰余金(2億円)を超える場合も対象とする改正が予定されています。
なお、減資への対応についての改正は令和7年4月1日施行、
100%子会社への対応についての改正は令和8年4月1日施行を予定しています。
【消費税】5.輸出物品販売場制度の見直し
輸出物品販売場というのは、いわゆる「免税店」です。
ショッピングモールなどでよく見かけますが、免税店で購入したものを海外へもっていって消費する場合には
消費税を「免税」とすることができるお店です。
ただし、運用が複雑で制度が不正利用されてしまっているため、制度の抜本的な見直しが今後見込まれています。
具体的な見直しは今後検討されていくようです。
【消費税】6.インボイス3万円未満の自販機特例の要件緩和
インボイス制度開始にあたり、3万円未満の自動販売機や自動サービス機による課税仕入れについては
インボイスが不要ですが、会計帳簿への住所等の記載事項が必要でした。
ただし、こちらは記載が不要になりました。
いちいち自販機の住所を書かないといけないのは事務コストがかかりすぎますから、、改正入ってよかったです。
ちなみに令和5年10月以降から遡って改正が行われます。
いかがでしたでしょうか?
今年の税制改正は、法人の経営者にとっては影響が大きい改正が割と多い印象です。
詳しくは税理士へ聞いていただくとよいでしょう。
次回は【個人向け】の改正について述べていきます。
それではまた。